回天特別攻撃隊・大津島基地    

 「回天」は、敵艦を確実に沈めるため魚雷の目として人が乗り込めるよう改造された特攻兵器です。発案したのは二十歳そこそこの青年将校で、上層部に提案した当初は、「決死の兵器はあり得ない」と反対されましたが、戦局が厳しくなると、その計画は採用され大分県に1ヶ所(大神(おおが))、山口県に3ヶ所(大津島、光、平生)の訓練基地が設置され、その内の1つが大津島基地になります。
 コミック「特攻の島」では随所に大津島で見た景色が描かれ、作者がこの島にモチーフを求めたことがよく解ります。それは、島ゆえの特殊性や回天記念館に納められた遺品なども、作者の想像力をかき立てる要因になったためと思います。 

 船着き場には「ようこそ回天の島へ」と大きい看板があり、その周辺に訓練基地があったとのこと。
 現在は小中学校が立っているところがまさにその場所で、小学校の敷地内には今でも当時の施設が残っています。マラソンが終了した後、嫁さんが学校周辺の施設を見学していると、いきなり係員の方がその施設の戸を開けて、さっきまで使用していたテントを仕舞い込みました。

 係の方曰く「昔の建物は頑丈やな〜」と、それを聞いた嫁さんはいきなりの光景にあっけにとられたようです。でも、それが基地と共に暮らしてきた島民にとって普通の光景なんですね。
 自分も小学校の横に戦没者の集団墓地があり、ごく普通にここで遊んでいましたが、嫁さんにしてみれば「信じられん」ことだったようです。

 現在の小中学校を中心に設置された基地と、そこからトンネルを抜けて魚雷発射基地へのトンネルが、ここの象徴的な施設で、コミックの中でもこの辺りの光景がしばしば描かれています。トンネルの中にはトロッコの軌道の跡が残り、途中行き交うことができるよう複線になっている場所があり、壁面のコンクリを見ると、つい最近まで使われていたような錯覚さえ感じます。

 海上の発射台に立つと、遺跡とは裏腹に深いエメラルドグリーンの海が印象的で、70年前同じ海で起きていたこと、20代前半の青年がどんな会話をしていたか想像すると身震いさえ感じます。

 回天記念館は時代の流れや背景、そして戦後へ、といった流れになっていて、今思い出してみると、前日訪れた「大和ミュージアム」の構成に似ているような気がしました。当時の服装、遺書などに加え、映画「出口の無い海」で使用された撮影用の回天の操縦席が展示されていました。

 両親、兄弟、妻子を慮った遺書を拝読する度に、20代そこそこの青年がしたためたと考えると言葉に出来ない思いがこみ上げてきます。その一方で、当時の軍国主義一色の時代背景、戦時教育がこのような「遺書」を書かせる結果に至ったようにも感じ、「遺書」の展示に対し複雑な思いを禁じ得ませんでした。
 
 感情を持った人間が武器の一部となり、相手を攻撃する「特攻」は軍国主義が支配する時代背景、戦況等も荷担した結果とはいえ「当然死」を強いる不条理な方法で、根っこは「戦争」に端を発しています。
 戦後間もなく70年、当時を知る方の高齢化で生の声を聞くことが難しくなりつつある現在、各地に残る戦争遺跡の保存は、戦争を知らない世代へ語り継ぐ「負の遺産」として保存、整備してここで何が行われ、起こったか「ありのまま」に展示して欲しい、と感じました。
 (2014.12.7)

 ※山友さんから実家の近くにも魚雷発射試験場があった、との書き込みがありました。
  調べると長崎県の大村湾に面した川棚町の片島になんと大正7年に試験場が設置され魚雷の発射試験が行われた他、大戦末期には特攻兵器の訓練が行われていたようです。
  ここも、一時は取り壊す話が持ち上がったとの記事も見かけましたが、今の所壊されず地元の方々の格好の釣り場になっているようです。


大津島の場所



 (1)
 島の港入口にて。


 (2)
 学校のグラウンドの橋にある倉庫。今は、学校の倉庫として平和利用されています。





 (3)
 魚雷発射場に向かうトンネル。



 (4)
 トンネル内の様子。路面にはトロッコの軌道の跡があります。




 (5)
 同じくトンネル内。





 (6)
 トンネル出口。

 (7)
 トンネル出口にある石碑。




 (8)
 発射場。以前は普通の魚雷の発射場として整備されました。

 (9)
 発射台の説明文。




 (10)
 ここもマラソンコースに取り入れられています。

 (11)
 上記、「クレーンの支柱跡」。





 (12)
 




 (13)
 発射場の海。ここからは通常の魚雷の試験が行われていました。
 
 





 (14)
 回天記念館に上がる坂道は当時のままのようです。

 (15)
 少し小高い場所にある回天記念館へ。





 (16)
 石碑と実物大の回天。

 (17)
  映画の撮影用で作成された回天の内部模型。





 (18)
 反対側に張っていました。
 

 (19)
 当時の施設。



(20)
 燃料等の倉庫。この施設もコミックの中の背景にしばしば出てきました。



 (21)
 途中で立ち寄ったSAにて。





 (22)
 現在(2014年12月)7巻まで出版されています。
 かなり史実に沿って描かれています。



 (23)
 そのうちの一コマ、発射試験場です。
 回天を海に降ろすためのクレーンが描かれています。




 (24)
 大津島にて嫁さんが平和記念館下の休憩所で購入。
 ※大和ミュージアムでも販売していました。
 

当時からすると、まさかマラソンコースになるなんて考えも及ばなかったと思います。
今は「平和を伝える大津島」です。




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